どちらが良い?不妊治療の現場での使い分けをわかりやすく解説
顕微授精(ICSI)のとき、
「精子をどんな方法で選ぶのか?」は、
受精率や胚の質、さらには妊娠率にも関わる大切な工程です。
その中でもよく聞くのが ザイモート(Zymot) と ピクシー(PICSI)。
どちらも精子の選別に使われますが、仕組みも目的も少し違います。
この記事では、
それぞれの特徴・向いているケース・メリットデメリット をまとめました。
1. ザイモート(Zymot)とは?
■ 簡単にいうと
“泳ぎの良い精子を自然にふるい分ける器具” です。
精子に強い遠心分離などをかけず、
マイクロ流体デバイス(微細な通路)を通り抜けた精子だけを回収します。
■ 特徴
- 精子にダメージが少ない
- DNA断片化の低い精子を選びやすい
- 遠心操作が不要で、精子へのストレスを軽減
- ICSI だけでなく IVF(ふりかけ)でも使用可能
■ 向いているケース
- 精子DNA損傷が気になる場合
- 精子の数はあるが質にばらつきがある場合
- 遠心分離のダメージを避けたい場合
- ふりかけ受精も希望する方(施設による)
■ 注意点
- 精子数が極端に少ない場合は適さない
- すべての施設で使用できるわけではない
- 劇的に妊娠率を上げる“魔法の器具”ではない
2. ピクシー(PICSI)とは?
■ 簡単にいうと
“ヒアルロン酸に結合できる成熟した精子だけを選ぶ方法” です。
精子は成熟すると、卵子の周りにあるヒアルロン酸に結合する能力が備わります。
この性質を利用し、成熟度の高い精子 を選ぶのが PICSI。
■ 特徴
- 精子の成熟度を重視する
- 受精後の胚発育が安定しやすいという報告も
- 選ぶのは“技師の目”ではなく“精子の能力”
■ 向いているケース
- ICSIで受精率が安定しない
- 胚の質が揃わない
- 精子に形態異常が多い
- 不妊の原因が男性側に強く疑われる
■ 注意点
- 精子がヒアルロン酸に結合しない場合は使用不可
- 効果は施設や症例により差がある
- すべての卵にメリットが出るわけではない
3. ザイモートとピクシーの違いを簡単にまとめると?
| 項目 | ザイモート(Zymot) | ピクシー(PICSI) |
|---|---|---|
| 選別方法 | 「泳ぎ」と「通過できるか」で自然選別 | 「ヒアルロン酸に結合できるか」で成熟度を判定 |
| 主に見ているポイント | 精子の運動・DNA損傷 | 精子の成熟度 |
| 精子へのストレス | 少ない(遠心なし) | 通常のICSIと同程度 |
| 向いているケース | DNA損傷、質のばらつき | 受精率不安定、形態異常、成熟度重視 |
| 使用のしやすさ | 施設による | 多くの施設で対応可能 |
| 必要な精子数 | 通常〜やや多め必要 | 少数でも可 |
4. どちらが良い?迷ったときの考え方
■ 目的が “DNA損傷を減らしたい” → ザイモート
Zymot は“自然に泳ぎ抜けた精子”を選ぶため、
DNAの損傷が少ない精子が集まりやすいと言われています。
Zymot(ザイモート)は、
たくさんいる精子の中から “元気よく、自然に前へ進む力のある精子” を選び出す道具です。
特別な力を加えるのではなく、
細いトンネルのような道を「自分の力で通り抜けられた精子」だけを集めるしくみになっています。
自分の力で前へ進める精子は、
体へのダメージが少なく、遺伝子(DNA)が安定していることが多いと考えられています。
そのためZymotは、
より自然に近い形で“質の良い精子”を選びたいときに使われる方法 です。
■ 目的が “成熟した精子を選びたい” → ピクシー
PICSI は成熟度を重視し、
初期胚が安定しにくいケースで使われることが多い方法です。
PICSI(ピクシー)は、
「より成熟していて、落ち着いた力を持つ精子」を選ぶ方法です。
この“成熟した精子”は、受精したあとにスムーズに育ちやすいという特徴があります。
そのため、
これまで初期の段階で成長が止まりやすかった方や、
胚盤胞(5〜6日目の胚)までなかなか進みにくかった方では、
PICSIを使うことで 育ち方が安定する可能性 があります。
その結果として、
「凍結できる胚が増える=凍結率が上がることにつながる場合がある」
と説明されることがあります。
ただし、これは“必ず良くなる”という意味ではありません。
卵子の状態や、その周期の体調・ホルモンの流れなど、
卵側の要素が大きく影響する部分 もあるためです。
PICSIは、
“卵の質を変える技術”ではなく、
精子選びを少し工夫することで、卵が育ちやすい環境を整えてあげる方法
とイメージしていただくとわかりやすいと思います。
もし、
・受精しても途中で止まりやすい
・胚盤胞まで育つ確率が低い
といった背景がある場合は、PICSIが一つの助けになる可能性があります。
治療の選び方に迷った時は、医師や胚培養士さんと一緒に、
“今の自分の体に合いそうな方法”を相談していくことが大切です。
■ “どちらが妊娠率が高い?”
良い質問ですが、実はここが誤解されがちな部分です。
現時点の研究では
「明確にどちらが優れている」と断言できるほどの差は出ていません。
ただし、
精子の状態や背景によって“相性の良い方法”が違います。
治療歴や精子所見、胚の状態をもとに
医師・胚培養士が判断するのがベストです。
5. 確認ポイント
- 今回の採精結果では Zymot と PICSI のどちらが適している?
- これまでの受精率はどうだった?
- 胚盤胞まで育たない理由は精子側の可能性がある?
- 追加費用と、期待できるメリットはどのくらい?
- 他の選択肢(IMSI、タイムラプスなど)は必要?
読者自身の理解が深まり、治療への安心感が少し大きくなるはずです。
6. まとめ
ザイモートとピクシーは、どちらも「より良い精子を選ぶための方法」。
ただし重視しているポイントが違います。
ザイモート → DNA損傷の低い精子を自然選別
ピクシー → 成熟度の高い精子だけを選別
大切なのは、
その特徴を知り、自分自身の治療背景と照らし合わせて
「自分にはどちらが合いそうか?」を考えられるようになること。
あなたの体と治療が、少しでも前に進むきっかけになりますように。
