なぜヒトだけ妊娠が難しいの?

からだの「選別システム」と他の生き物とのちがい

「妊娠って、もうちょっと簡単な仕組みにならないかな」
「女性一人で妊娠できないものかな」

妊活や不妊治療のお話をしていると、そんな冗談を言い合うことがあります。
そのたびに、私は頭の中でこんなことを考えています。

「一部のトカゲは“単為生殖(メスだけで増える)”するんだよな…」
「猫は交尾の刺激で排卵する“誘起排卵”だよな…」

妊活には直接関係ないけれど、
「生き物の“増え方”のマニアックな話」が、どうしても気になってしまうのです。

今回は、そんなオタク心を少しだけ解放しつつ、
「なぜヒトの妊娠はこんなに難しく感じるのか?」を、
からだの仕組みと、他の生き物との比較から、やさしく紐解いてみます。


目次

1. 妊娠は「受精」よりも、その先が大変

まず、ヒトの妊娠の流れをざっくりと。

  1. 排卵:卵巣から成熟した卵子が1つ飛び出す
  2. 受精:卵管で精子と出会い、受精卵になる
  3. 分割・移動:細胞分裂しながら子宮に向かう
  4. 着床:子宮内膜に潜り込む
  5. 妊娠維持:胎盤が育ち、ホルモン環境が安定する

よく「卵子と精子が出会えば、あとは自然と妊娠する」と思われがちですが、
実はそう単純ではありません。

受精自体は、意外と起こりやすい

体外受精のデータをみると、成熟した卵子に顕微授精などを行った場合、
6〜8割前後が受精する
とされる報告が多くあります。

つまり、

「卵子と精子がきちんと出会ってさえくれれば、
 “受精する”ところまでは比較的起こりやすい」

というのは、感覚として大きくズレていません。

ただし

そこから先、着床して、さらに妊娠が続いていくかどうかのほうが、
圧倒的にハードルが高いのです。

大きなふるい落としは「着床」と「ごく初期」

自然妊娠の研究では、
・受精まではかなりの割合で起きている
そのうち相当数が、着床前〜ごく初期の段階で自然に消えている
と考えられています。

いわゆる「化学流産(生化学妊娠)」も含めると、
受精した卵のかなりの部分が、私たちが“妊娠した”と認識する前に
自然淘汰されている
と見られています。

なので、

「受精はしていても、着床・その後までたどりつけるかどうかが、
 一番大きな難関」

というイメージは、とても現実に近い感覚です。


2. 「赤ちゃんになれる卵子は3〜4ヶ月に1回」は本当?

ここで、よく耳にするフレーズがあります。

「毎月排卵はしているけれど、
 本当に“赤ちゃんになれる卵”を排卵しているのは
 3〜4ヶ月に1回くらい」

感覚的には「それくらいでもおかしくないかも…」と思えますが、
はっきりと「3〜4ヶ月に1回」と言い切れるエビデンスは、
少なくとも私は知りません。

ただ、背景になっている考え方はとても大事です。

① すべての卵が「染色体的に健康」なわけではない

胚の染色体を調べる検査(PGT-Aなど)の研究からは、

  • 若い年代でも、一定割合の胚が染色体異常を持つ
  • 年齢が上がるほど、異常胚の割合が増えていく

ということが、たくさん報告されています。

ざっくりとしたイメージですが、
20代後半〜30代前半でも「すべての卵が万全」ではなく、
正常な染色体を持つ卵子は“その一部”に過ぎません。

② 妊娠率=「卵の質」だけで決まるわけでもない

さらに、

  • 精子側の要因
  • 子宮内膜の状態
  • ホルモンバランス
  • 免疫・炎症
  • 睡眠・ストレス・生活習慣

なども関わってきます。

なので、
「3〜4ヶ月に1回しかチャンスがない」というより、
「毎月チャンスはあるけれど、
 さまざまな条件がそろって“赤ちゃんまで育つ卵”は限られている」

と捉えたほうが、現実に近いと思います。


3. 他の生き物はどうしているの?

ここから、オタクコーナーです。
「ヒトだけ妊娠が難しいの?」という素朴な疑問に、
生き物たちの増え方をチラ見しながら近づいてみます。

● 猫やウサギ:交尾すると排卵する「誘起排卵」

猫・ウサギ・フェレットなどは、
交尾の刺激で排卵がおこる(誘起排卵)タイプです。

  • 排卵のタイミングが、ほぼ「精子が来たタイミング」と一致しやすい
  • 受精のチャンスを無駄にしにくい

という意味では、
「合理的な仕組みだなぁ…」と感心してしまいます。

ヒトは「自発排卵」なので、
排卵のタイミングと性交のタイミングを
うまく合わせる必要がある
のが、そもそもの1つ目のハードルですね。

● 魚やカエル:とにかく数で勝負

魚やカエルの多くは、卵を外に産み、そこに精子を振りかける、いわば“体外受精”です。

  • 一度に何千、何万もの卵を産む
  • そのうち実際に成体まで育つのはごく一部

という「数で勝負する」戦略です。

表面上は「よく増える」ように見えますが、
途中で失われる命の数もとても多い世界です。

● 一部のトカゲや虫:メスだけで増える「単為生殖」

一部のトカゲ・昆虫・甲殻類などには、
オスがいなくても、メスだけでクローンのように子どもを産める
『単為生殖』という仕組みを持つものもいます。

  • 「とにかく数を増やしたい」「オスに出会う機会が少ない」
    などの環境で有利な戦略
  • その代わり、遺伝的多様性は低くなりやすい

「女1人で妊娠できたらな〜」という妄想は、
生物学的には決してあり得ない話ではないところが面白いところです。

● じゃあ、ヒトは?

ヒトは

  • 一度に産む子どもの数が少ない(通常1〜2人)
  • 妊娠期間が長い(約10か月)
  • 子どもが自立するまで、とても手がかかる

という、「少数精鋭で、1人にものすごく投資する」スタイルの生き物です。

その分、

  • 妊娠に入る前の「選別」
  • 妊娠初期の厳しいふるい

がとても強く働いていると考えられています。


4. ヒトの妊娠が「難しく感じる」理由まとめ

ヒトだけが特別うまくいかない種というわけではなく、
「ヒトはヒトなりに、かなり厳しいチェックをかけている」というのが実情です。

① 受精よりも、“着床〜その後を続ける”ほうがずっと難しい

  • 受精そのものは起こりやすい
  • その後、染色体異常・子宮内環境・ホルモンなどの理由で多くが早い段階で自然に止まる

② すべての卵子が“赤ちゃんになれる”わけではない

  • 年齢に関わらず、一定割合は染色体的に問題を抱える
  • 年齢が上がるほど、その割合は増える

③ からだは常に「自分と赤ちゃんを守るための選別」をしている

  • 無理をして妊娠を続けるのではなく、「いったん止める」という選択をすることもある
  • それは、“からだが悪い”のではなく、安全側に振れた結果であることも多い

④ 他の動物と比べると、“質重視・少数精鋭”戦略

  • 猫やウサギのような誘起排卵
  • 魚やカエルのような数で勝負
  • 単為生殖する生き物たち

と比べると、ヒトはかなり慎重で、時間をかけて選ぶタイプの生き物だ、とも言えます。


5. メッセージ

妊娠を望んでいるとき、
陰性が続いたり、流産を経験したりすると、

「自分のからだは、妊娠が下手なんじゃないか」
「人間って、どうしてこんなに妊娠が難しいんだろう」

と、自分を責める気持ちが湧いてきてしまいます。

でも、生き物全体の“増え方”を眺めてみると、

  • ヒトのからだは、命を守るためにとても慎重で、ものすごく厳しい基準で選別しているからこそ、うまくいかないこともある

そんな側面も、ちらっと見えてきます。

妊娠は「がんばりが足りない」から起きないのではなく、
からだの中で、信じられないほど精密な選別と調整が行われている結果

その上で、
ホルモン・血流・自律神経・生活習慣といった部分を
鍼灸やセルフケアでサポートしていくことには、
ちゃんと意味があります。

もし、このブログを読んで、

「人間って、意外とすごいことをやろうとしているんだな」
「うまくいかないのは、自分がダメだからじゃないんだな」

と、ほんの少しでも感じてもらえたら嬉しいなと思います。

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